近況:本業やや忙しく、ゲームが1日0時間気味。

DQX:空想メモ「女王様のそれから」(セレド)

リゼロッタの死に厳しい言葉をかける父ブラト(DQ10)

「こ、子供扱いしないでよ…!あなたと私は同い年でしょう?私だって体は子供のままだけど、あなたと同じだけ、生きて…。…生きて?…死んで?…死んでからも、生きているのよ!」
「でも、あの時は子供だったわ。頑張ったのね、姉さん、たった一人で。心細い思いをさせてごめんなさい。……………………ねえ、姉さん。…私、流行り病に罹ってしまったの。運がないのね、どうせこんなに苦しむなら、あの時…姉さんとこっちに来てしまえばよかった。会いたかったわ、姉さん…。」
 ルコリアは静かに微笑んで、遂に自らの真実をリゼロッタに告げた。
 リゼロッタは暫し黙ってから、小さく頷いた。会いたかったという気持ちには頷けるし、あの時こっちに来てしまえばよかったという気持ちには頷けなかった。だから小さくだけ、頷いた。
「会いたかったけど…、ふふ、私だいぶ苦しんで大変だったのよ。姉さんとやっと会えるかもしれないのに、姉さんと会えなくてもいいからこの病を治して!と神様に祈ってしまうこともあったわ。どれほど重い病だったか寝る前に聞いてくださらない?」
 いたずらっぽく笑うルコリアの目にはいつの間にか涙が溜まっていた。リゼロッタは大人の涙を拭うことを一瞬ためらいつつも、昔のようにルコリアの涙を指で幾度も掬(すく)ってから顔を胸に抱き寄せた。このしっかりした大人の女性が、本来なら頼りになる姉と二人仲良くこの歳になるはずだった可哀想な可哀想な慎ましい私の妹なのだと思うと、この女性の送った人生が健気で堪らなかった。
「姉さん、さっきまで見ていた“夢”からは醒めたかしら?」
「…ええ。ルコリア…。あなた本当にこっちにいるのね、かわいそうに…。」
「べつにかわいそうなんかじゃないわ…。大変だったけれど、今こうしていることの何がかわいそうなの。」
「…そうね、そうだといいわ。」
緑の毛氈に膝を崩したルコリアの肩や頭を幾度も抱きしめたままリゼロッタは、小さな礼拝堂を見渡した。
 偽りの実家から戻ったあの夜と同じ教会で、あの夜と違うのは、出がけには消えてしまいそうなほど短くなっていた燭台の蝋燭が、立ち寄ったルコリアによって取り替えられ、火が灯っていること。
「姉さん。」
あの日、誰もいない礼拝堂で呟いてみた自分を呼ぶ声が、今日は本当にルコリアの声であること。
「父さんと母さんは、とても姉さんに感謝していたわ。私まで先立つことになって本当に申し訳なかったけれど、姉さんが先に行って待っていてくれるところに送り出すんだからこんなに心強いことはあるか、何の心配もしていないから、気にせず行きなさいって言ってくれたの。」
泣き崩れた先にあったのはあの日のように硬い床に敷かれた毛氈ではなく、ルコリアの膝だったこと。泣き崩れた背中を撫でてくれる手があること。
「私ね、さっきまで生死の境をさまよっていたのよ。時折意識が戻るのだけど、やっぱりまた意識が遠のいて。…だけどね、最期に言えたの。姉さんとダーマの神殿で会った後、父さんと母さんに、ちゃんと姉さんと会えたこと。二人とも安心していたわ。」
「二人はなんて?」
「いずれ必ず行くから、それまで家の掃除をしっかりしておくようにって。それから、戸締りもね。」
 あの夜と違うのは、あの日見た夢のように、ルコリアと夕食を食べたこと。ルコリアが罹った病の話を聞く限り、不遇の死は遂げたものの自分は案外苦しみの少ない死に方をした気がしてきたこと。明け方に目が覚めた時、隣にルコリアがいたこと。
 そのまま昼まで泣き通したことだけは、変わらなかった。
 翌日、女王による国民招集のもとルコリアはセレドで二人目の名誉子供となり、最初の偉業としてリゼロッタが大事にしていたルコリアの縫いぐるみを得意の裁縫で修繕した。程なくして、偽りの生家をリゼロッタと暮らせる体裁に整え、高台の教会をフィーロとラーニに明け渡す偉業を成した。瓦礫の山は、ルコリアの監督のもと、間も無く片付けに取り掛かることになっている。
 崩れた教会を見つめながら、どう片付けたものかルコリアが考えていると、どこからともなく甘い匂いが漂ってきた。黄金の小麦と呼ばれるメルサン小麦にスイーツピーの花で香りづけをした焼き菓子のようだ。スイーツピーは、郵便局に勤めるカプナお気に入りの香りで、この町で売られている便箋のモチーフにもなっている。
「おい、ルコリア。」
「こーんにーちはー!」
 左手に振り返ると二人の男児が歩いてきた。
「あら、フィーロ、ベネット、こんにちは。礼拝の帰り?」
「ああ。リズは今日は行かないみたいだな。」
「いいえ、朝早くに済ませてあるの。死んだらやっと動けるようになったものだから嬉しくてつい、歩きたくなってしまって。姉さんは早朝に起こされて不服そうだったけれど、カーテンを開けたらしぶしぶ起きてきたわ。」
「なあフィーロ、ルコリアさん、なんかいい匂いがしないか?」
 ベネットはどうしてもルコリアを呼び捨てにはできなかった。昔からの付き合いなのだし「ルコリア」で構わないと言っても、どうしても「ルコリアさん」と呼んでしまう。実際、ほとんどの子供たちが、ルコリアに敬称を添えて呼んでいる。もっともこれは大人らしい外見をした大人に対する条件反射のようなもので、ルコリアによそよそしさを感じているわけではなかった。
「名誉子供はおやつ抜きという愚かな法律をなくすよう女王様に進言したのが聞き入れてもらえたみたい。」
「どうかな、リズは時々いじわるだから、ルコリアだけもらえないかもしれないぞ。」
「そんなことしたらたとえ姉さんでも呪ってやるわ。」
 ルコリアがおっかない顔をしてみせると、すかさずベネットが満面の笑みで言った。
「俺、呪いをとく勉強中だから呪ったら教会に女王様を連れて来いよな!」
 リゼロッタは鼻歌を歌いながら自宅のキッチンで菓子を焼いていた。暖炉ではルコリアが焚(く)べた薪がパチパチと温かく鳴っている。

わたし

…的な…。
日記の返却を拒まれて呪う意思表示をするルコリア(DQ10)DQX:私はあの子の郵便屋さんとしてセレドを行き来するだけの一生が欲しい