近況:本業やや忙しく、ゲームが1日0時間気味。

DQX:空想メモ「女王様のそれから」(セレド)

リゼロッタの死に厳しい言葉をかける父ブラト(DQ10)

「姉さん。」
“ルコリアの声”が、リゼロッタしかいない礼拝堂にぽつんと響く。声の主(ぬし)はリゼロッタだ。誰もが皆「リゼロッタとルコリアは顔だけじゃなくて声も同じ」と言っていた。そう言われたところで自分に聞こえてくる自分の声とルコリアの声は違ったし、ルコリアも「自分が聞いている声と姉さんの声はまったく違う」と言っていたのだが、人は皆「同じ声だ」と言った。おそらく自分に聞こえる声と人が聞いている声というのは違うのだろう。
 せっかくルコリアと同じ声を持っているのに、生涯あの声を聞くことができないなんて。せめて自分の本当の声を、外から聞けたらいいのに。
「姉さん…。」
何度呼んでみても聞こえてくるのはルコリアの声ではなく、自分の中で聞こえる、いつもの自分の声だった。
 何もかもがどうでもよくなったリゼロッタは毛氈に倒れ込み、そのまま眠ってしまった。その晩みた夢は、ルコリアと両親と夕食を食べた夢だった。明け方に目が覚めたリゼロッタは、昼まで泣き通した。
 あれ以来の長い年月、リゼロッタは偽りの実家に寄りつくことをせず相変わらず高台の教会の二階に暮らしている。そうして時折町を散歩しては“国民”に挨拶をして周り、話を聴き、“女王”としての務めを果たし続けていた。既に家臣や平民としてリゼロッタに傅く者はなく、無論リゼロッタ自身も地位など望んでいなかったのだが、人々の上に立ち続けることで不服の矛先を自分に集めることができると知っていたので進んでそのようにしていた。責任など負いたくはないが、己の胸の内にある悔恨から逃れる術はない。ならば犯した過ちと向き合い続ける方がまだ救われる気がした。この町から“大人が消えた”のは自分の責任なのだ。
 どれだけの年月を経ても、否、途方もない月日が積み重なるからこそ、子供たちはふとしたはずみに過去を悔やみ現状を嘆く。当たり散らす子供たちのすべてをリゼロッタは一切反論せず、漏らさず受け止めた。人が安らぎを得る過程に甘える相手が必要なことは自分が一番知っている。
 本当に幼い頃のリゼロッタは、納得のいかない物事に直面するとルコリアに当たることがあった。今思えばどれもこれも言いがかりでしかなかったが、それでもルコリアはいつも優しく手を握ってくれた。今こうなってから尚更、ルコリアの懐の深さが身にしみる。「ぜんぶ女王さまのせい!」と泣き喚き、リゼロッタの胸板を叩く幼いティマの手を両手で包みながら、リゼロッタはルコリアのことを思い出していた。
 高台の教会に居る時間のほとんどは、縋るような思いで日記をつけた。その紙は町の記録でもあったし、唯一リゼロッタがルコリアと寄り添える場所でもある。もっとも今はもうルコリアに日記の内容は届いていないようだが、それでも心の中に住んでいるルコリアと会話ができる貴重な儀式だった。
 以前は不思議な旅人がルコリアからの手紙を携えて訪れたこともあったけれど、最近はすっかり来なくなってしまった。
(優しい“名誉子供”さん、…どうしているかしら。)
どんなに無礼を働いても必ず助けてくれたところがルコリアに似ていて、内心すっかり懐いていた。出会って早々カエル呼ばわりをしたことまである。あの当時は環境の変化に心がついて行けず、とにかく人に当たり散らしたかった。そうして苛立ちを隠さないまま投げやりに罵った結果、「カエル顔」などと訳のわからないことを口走ってしまった。いずれにせよ罵るべきではないのだが、罵るなら罵るでもう少し別の言葉もあったのではないかと今は思う。遂に一度もおやつを出せないままだ。
 教会の柱は朽ちてきた場所もある。階段を上ったところにあった子供たちの落書きもいつの間にか薄くなって、ほとんど消えかけている。草花は枯れたり咲いたりして世界は確実に月日を重ねているのに、自分たちだけが時間に無視されている。あの名誉子供さんだって今はもう歳を重ねて冒険をやめてしまったのかもしれない。殊更に寂しくなると撫でて抱きしめたルコリアのぬいぐるみの綿はすっかり痩せて、布にも綻びができた。リゼロッタに裁縫を教えられる者はいない。だから今はもう、なるべく触らないように棚に飾ってある。枕元に置くと寝ぼけて不意に抱きしめてしまうから。