近況:本業やや忙しく、ゲームが1日0時間気味。

DQX:空想メモ「女王様のそれから」(セレド)

リゼロッタの死に厳しい言葉をかける父ブラト(DQ10)

「この教会の門前は、いつもボッシュが守っていたんでしたっけね?」
 核心に触れるのを待っていたリゼロッタは拍子抜けしたが、ルコリアにも心の準備が必要なのかもしれないし、この会話の向こうに自分が欲している答えがあるのだろう。
「儀式をやり直すためのドラゴンの尻尾を依頼したのは彼だったんですって?名誉子供さんから聞きましたわ。私の世界では、あの事故…の後、ボッシュと同じ場所でいつもドラウさんが瓦礫を片付けていたわ。覚えている?あの、体の大きな。」
「ええ。ドラウさん、覚えているわ。よく男の子たちが度の過ぎたいたずらをして怒られていたっけ。遂に私は生涯に渡って彼の素顔を見たことがないままよ。いつも怖そうなマスクをつけていたじゃない?どんなお顔をしているのかしら。見目麗しい殿方だったらどうしよう。」
「ふふふ。私は見たことがあるけど、内緒にしておくわね。彼、よく、言ってたわ。悪ガキだと思ってたけどあの子たちが大人になるところを見たかった。って、亡くなったみんなのことを思い出すたびにね。素敵な人よ。でも、どっちにしたって姉さんはフィーロじゃないの?…でも、セリクとも随分仲良くなったみたいね?」
リゼロッタは意外な名前に喫驚したが、考えてみればセリクはルコリアが暮らすセレドの町で療養していたのだ。快方した後に町で唯一の子供だったルコリアと面識を持っても何ら不思議ではない。
「ねえ、セリクは……。」
リゼロッタが言い掛けたところで、ルコリアは安心なさいとばかりに、しっかりと微笑んだ。
「グランゼドーラの音楽祭で優勝したわ。ひっぱたいたんですって?セリク、あの時リゼロッタと代わらなくて本当に良かった、って、姉さんたちのお墓に優勝を報告しながら言っていたっけ。私は姉さんと代わってくれて良かったのよって言ってやったけど。…もちろん冗談よ。大切そうに木彫りのロザリオをつけていましたわ。」
「そう!良かった。…ああ、本当に、良かった。」
〈あなた、私と代わりなさい!私、また生き返ることができるならどんなにつらい思いをしてもかまわない!〉
—————そう言って叱りつけた彼が。
〈お願いだから、私たちの分も夢をかなえてよ。〉
———————そう言って背中を押した“死者”が、生を全うしているのだ。よかった…。
 …本当によかったが、今聞きたいのはそんなことではない。ルコリアがなぜここにいるのか、パパとママはどうしているのか。知りたいことがある。リゼロッタは逸る気持ちを抑えてルコリアの心の準備が整うのを待ちながら、他愛ない世間話に付き合い続けた。
「ドーバはどうしているの?あの子はものすごく食べるから大変だったんじゃない?」
「そうなのよ。食事なんてしなくても問題ないはずなのに、あの子だけいつも飢えてるみたいに食べていたわ。死後も食事を愉しめるのはいいことだけど…。」
「アッシュは元気?今は町の番兵をしていないのね。神殿に行く時に見かけなかったわ。時間が遅かったからかしら?」
「今日はお休みなの。いつも頑張ってくれているから休んで欲しいってみんなでお願いしたのよ。でも、元気にしているわ。他のみんなもね。ベネットなんかフィーロにくっついて、今では町の博士みたいになっているわよ。」
「あのいたずらっ子が?嘘みたいだわ。ところで、親衛隊の二人も今日は休暇なのかしら?」
「…私はもう、指導者をやめて名ばかりの女王だから、兵士はつけていないの。今は、皆が寂しくなったり、死を受け入れることができない気分の日に、抑えきれない気持ちを受け止める受け皿としての女王よ。“この国を作ってしまった”責任を取るだけの。でも皆のことを勘違いしないで、とってもよくしてくれるの。ただ、現実を受け入れられない日は誰にでもあるでしょう?」
 すっかり大人びたリゼロッタの言葉に穏やかな表情で頷きながら、ルコリアはリゼロッタと目の高さを合わせるために腰を屈めると、愛くるしい小さな姉の薄い両肩に優しく両手を置いた。
「姉さん、こんなに小さな子供があの事故のすべてを背負っていたのね。」