たしか幼稚園だったか小学校入りたての頃、あの頃の私はファミコンカセットの『マリオ3』が欲しかったのだけど、なかなか買ってもらえなかった。尻尾をピコピコ振って飛び立つ可愛らしいマリオと、パッと明るい黄色のカセットが私の憧れだった。
…しかしあるとき、大人の気まぐれか、ファミコンカセットを買ってもらえたのだ。黄色いボディのそれは……………、一体どういうわけか『ロードランナー』だった。一体どういうわけだろう…。「黄色いソフト」ということだけ覚えていたのか、それともゲームソフトなんて何を買っても同じと思われたのか、理由は分からないが、とにかく私は黄色…というよりレモンイエローの『ロードランナー』をプレゼントされた。
ジャンプのできない主人公にできることは、徒歩の横移動、はしごの上り下りと、棒を伝った移動、落ちること、足元のブロックを崩すこと、そして、溝に閉じ込められることだった。なんだこの玄人向きのゲームは…。マリオならジャンプができる。ドラクエならどこかに落ちて死んだりしない。ゼビウスなら敵を攻撃できる。これまで遊んだソフトの勝手に慣れ切っていた幼児である私は、『ロードランナー』に困惑した。
あれから25年強。
今朝、私はなかなか眠れなくて妻の横でゴロゴロしていた。いよいよ一人でじっとしていることに耐えかねて「手軽なゲームはないか」とSwitchをつけてみたら『ロードランナー・レガシー』を見つけた。
懐かしい…!
あの不親切をもう一度…!
とりあえず体験版のチュートリアルをやってみることに。
『ロードランナー』は基本的に「ジャンプができない」ということさえ覚えておけば、あとはステージを見るだけでゲーム性が浮き彫りになる。画面だけ見るとシンプルなアクションゲームの様相だが、実質はパズルゲームに近い。
ジャンプすることなく金塊を集めるには、「どこから」「どう移動して」「どの順番で壊して」「どう退避するか」をすべて計算しなければならない。
だから、落ちたり、掘ったり、上ったりして集める。取りに行く順番を間違えると、二度と帰れない。跳べない。壊したブロックは時間が経つと復活する。ジャンプはできない。へんなところに一度閉じ込められたが最後、もう帰れないのだ。そうして、それでも「ここをこうすればいいんだ!」を思いつくと、無用心に意気揚々と掘り進めてしまう。
「二度と同じ過ちはおかすまい!」そう胸に誓った私は無事にすべての金塊を獲得し、しかし次のステージに進むためのハシゴ(画面右上に現れた緑色に発光している新しいハシゴ)に辿り着かなければならないということを完全に忘れていたため、またブロックの中に閉じ込められた。
翼を持たない私たち人類の比ではないほど、ロードランナーは跳ばない。地に足をつけすぎた生き方を貫く、それがロードランナーだ。
さあきみも、ブロックに閉じ込められてみないか?